ブタって寒さに弱いの?

※アイキャッチ画像はトコちゃんではありませんm(_ _)m
ブタって寒さに弱いの!?
はい、弱いです!!
一見、ブタのムチムチした厚い脂肪に包まれた姿を想像してしまうと、寒さに対して強そうに見えるかもしれませんが、実は寒さにも暑さにも弱いです。
今回は気温低下のせいで起こったトコちゃんの体調不良をキッカケに、色々と調べてみたこと改めて覚えておきたいことを書いていきます。
飼い主的には大反省です(汗)
季節の変わり目の体調不良
秋~冬へ移り変わる10~11月頃に、トコちゃんの具合が悪くなったことがありました。
いつもは室内で「ブッ!ブッ!」鳴いたり、後を付いてきたり、側に寄り添ってきたりするのですが、ある日グッタリと寝たまま一日中動こうとしない現象が起こりました。
体と、いつもはヒンヤリしがちの鼻がアツアツに感じたので体温を測ってみました。
とりあえず、人間用の体温計でトコちゃんのワキに挟んで測定すると、
※動物病院の獣医さんや家畜ブタさんのところは、肛門に体温計を刺して直腸温度を見ることが多いようです。素人が自宅でやるのは抵抗があったりするので、耳に当てて瞬時に計測するタイプを使用しても問題ないと獣医さんから聞きました。正確性よりも、”自宅で簡易的に日常的に測るのが目的”という意味です。
42℃!!
えっ!?ヤバい??
落ち着いて…ブタさんの平熱は39℃前後らしいです。
※ちなみにトコちゃんの平熱は38℃後半くらいでした。
人間目線で考えると39℃くらいの熱、致命的ではないけど高熱ですね 😕
幸い食欲はあったので、安静にさせてみて、翌日も悪そうなら病院へ連れて行こうと思いました。
幸い次の朝には元気いっぱいいつも通りでした!!
他のブタ飼いさんたちに相談したら、季節の変わり目に寒くなるとそんな風に体調を崩すことはよくあるよ、とのこと。
昼間は暑いけど、朝夜は冷え込んだりして、気温の変化について行けなかったのかな?
人間もおんなじですね!!
室内の暖房はこの時期から付けっぱなしです 🙂
冬場の体調不良
1月のある日、散歩へ出かけました。
完全に冬で寒いので、日の当たる昼の時間帯に。
妻が長年勤めた仕事を辞めて、幸いなことにしばらく家にいるので、平日の散歩をお願いしています。
腹巻きや冷えないように服やコートを着せて、多少寒くてもいつも平気なのでその日もいつものように出かけました。
ただ、当日は気温がやや低めの日であり、最高気温が10℃、その数日前までは13~15℃ほど。
※『10℃以下の冷たい気候で、歩行困難や倒れる豚の率が高まる』
テキサス工科大学 http://www.depts.ttu.edu/animalwelfare/Research/Transport/index.php#10
晴れていたので日差しも温かく、外で元気に歩いていましたが、途中からブルブル震えたり動きが鈍くなり始めたそうです。
心配になりすぐに帰宅し、暖房の効いた室内にホットカーペットの上で毛布に包まり、暖かにしました。
その1時間くらい後までは元気にしていたそうですが、しばらくして動作がかなり鈍く、全く鳴かず、エサを見せても食べようとしなかったそうです。
そんなこんなで、私が仕事から帰宅したところ、トコちゃんのいつものお出迎えもなく、ジッとボーッとしてる姿に驚き心配しました 😕
最近好きなブロッコリーも食べず、温かい飲み水もほとんど手を着けず、また風邪っぽくなったのかな?と感じ体温を測ると今回は平熱39℃です。
なぜかイチゴとミカンはバクバク食べたので(笑)いっぱいあげた後、ひとり寝袋で寝たがるので湯たんぽを添えて安静にさせました。
ずっと横になってるけど意識はハッキリなので、一晩様子を見て、翌日も悪ければ病院に行こうと決めました。
幸い、今回も次の朝には元気いっぱい!
食欲も完全復活です 😳
ちょっと体調が良くなかっただけかな?
※発情期ではホルモンバランスが崩れ、免疫力が弱まることがあると聞いたことがあります。そのことも重なったのかもしれません。
他の嫌な病気も関係なさそう。
後々妻から散歩の様子を聞いて、気温が低いのがマズかっただろうとの結論に至りました。
気温が低い時は散歩を庭先だけで済ますか、短いコースにするか、そもそも外出を控えるか、注意しなければなりません 🙁
なぜブタは寒さに弱いのか?
今回で2度目の寒さが原因と思われる体調の変化を経て、ブタさんが寒さに弱い理由を再認識したくなりました。
まずブタの体毛は剛毛で保温効果はほとんどないことがひとつの原因です。
でもブタさんは肉付きがいいし、あの皮下脂肪はなかなかの断熱効果があるんじゃないのか?と疑問に思い色々とググってみました 🙂
そして1点知らなかった情報を見つけました。
多くの哺乳類が持っている“UCP1”という遺伝子を、ブタは持っていないそうです!!
冬のと殺場-吹きさらしの係留場、冷水をかけられる豚たち
https://www.hopeforanimals.org/slaughter/424/
UCP1って何?
脱共役タンパク質(Uncoupling protein)は、酸化的リン酸化のエネルギーを生成する前に、膜間のプロトン勾配を浪費することができるミトコンドリアの内膜のタンパク質である。脱共役タンパク質は、Uncoupling proteinの頭文字を取ってUCPと略されることが多い。
哺乳動物では5つのタイプが知られている。
・UCP1:サーモゲニン(en:Thermogenin)として知られている。
・UCP2
・UCP3
・SLC25A27:”UCP4″として知られている
・SLC25A14:”UCP5″として知られている出典元:Wikipedie 脱共役タンパク質
https://ja.wikipedia.org/wiki/脱共役タンパク質
ちょっと難しい言葉が並んでいるね(笑)
私的には懐かしい単語の響きがします。
こういう分野は、生化学とか分子生物学にカテゴリーされると思われます。
※思われますっていうのは、自分の大学時代に履修したはずですが、あまり好きな分野でなくて記憶がほとんどない 😉
体温維持のためのひとつの手段として、気温が下がった時、動物は筋肉を収縮させること(震え)により熱を産生します。
ブルブル寒そうに震えているのは、なんとか体温を下げないようにするための反応なんですね!
また、それとは別の方法で低温時に熱を生み出す仕組みに重要な役割を果たすのがUCP1です。
UCP1は褐色脂肪細胞のミトコンドリア内に豊富に存在し脂肪を燃焼させて熱を産生します。
非震え熱産生(Non-shiverring thermogenesis:NST)と呼ばれています。
褐色脂肪組織(Brown adipose tissue:BAT)は哺乳類で見つかった2つのタイプの脂肪または脂肪組織の1つである。もう1つのタイプは白色脂肪組織である。
褐色脂肪組織は、新生児や冬眠動物では特に豊富である。その主な機能は、動物や新生児が体を震わせないで体の熱を生成することである。出典元:Wikipedia 褐色脂肪組織
https://ja.wikipedia.org/wiki/褐色脂肪組織
体温維持をする上で大切な役割をするこの”UCP1″をブタは持っていません。
赤ちゃんブタはそもそも未熟に産まれてくるそうですが、このように体温調節に関してひとつ欠点を持っているために新生児死亡率が高い原因にもなってるのではないのでしょうか。
ブタ同士が密集して暖を取ったり、人にベッタリ引っ付いて寝たり、ストーブの前から離れようとしない様子も、このことを知ると納得できます。
また、非震え熱産生ができない故に、必然的にエネルギーの消費が少ないため、ブタは肥満になりやすいという理由のひとつになっているかもしれません。
なぜUCP1を持っていないの?
こちらに考察の一部が書かれていました。
Reconstitution of UCP1 using CRISPR/Cas9 in the white adipose tissue of pigs decreases fat deposition and improves thermogenic capacity
https://www.pnas.org/content/114/45/E9474
2000万年前のブタ(正確にはイノシシ)が、UCP1を介したNST(非震え熱産生)を必要としない熱帯環境で過ごしていたため、次第にその遺伝子が欠損してしまったと考えられているそうです。
すごい昔ですね!
2000万年前は、地球史上で新生代の新第三期に分類されるようですが、その次の第四期は「氷河時代」呼ばれています。
寒い期間をどのように生き残ってきたのか疑問に感じますが、いくつかの動物は環境に適応するためにNSTに依存しない体温を保持するための進化を遂げたようです。
出典元:失った遺伝子による進化的代償
http://www.nips.ac.jp/thermalbio/report/report2017_02.html
例えば、低い代謝率を獲得し体温自体が低くなったり、大型化や体脂肪の増加を伴ったりと、体温調節や代謝機構を特異的に備えていったそうです。
ではイノシシ(ブタ)はどういう進化をしていったのでしょうか?
ここからは私の持つ文献を参考にしてみました。
偶蹄目の祖先は、5000万年以上も昔の始新世紀前期に、ヨーロッパからアジア、北米にかけて広く分布していたディコブネ類だと考えられており、(中略)これらの動物はウサギよりも小さいくらいの小型のモノであったという。(中略)イノシシやペッカリーの仲間がディコブネ類から分かれて出てきたのは約4000万年前、漸新世前期だと考えられている。このころ、最古のイノシシの一種であるプロパレオコエルス(Propaleochoerus)がヨーロッパにすんでいた。これはディコブネ類よりはかなり大きかったが、まだ偶蹄類としては小型であったという。(中略)イノシシ類の進化傾向としては、(中略)まず、体格が大型化したこと、(中略)イノシシ類は、新世代中期から後期に数多くの適応放散の系統に分岐し…….
出典元:ブタの動物学 著:田中智夫
豚の起源についてわかっていることは、(中略)約4000万年前のユーラシア大陸にプロパレオコエルス(Propaleochoerus)の形態で現れた、ということだけだ。これが最初の本家本元の豚ということになる。
出典元:思考する豚 著:ライアル・ワトソン
イノシシ(ブタ)の祖先は、ウサギより小さい小型のものでしたが、新世代の後期までには大型に進化していったようです。
このことは、ドイツの生物学者ベルクマンが提唱する、「恒温動物では同じ種でも寒冷地域に生息するものほど体のサイズ(体積)が大きくなる」というベルクマンの法則に合致し、イノシシは大型化し体表面からの熱の拡散を防ぎ、NSTに頼らず体温を維持するための適応進化をしたと言えそうです。
マイクロブタは寒さにどう適応する…?
自力では無理ですよね 😐
古代に熱を生み出す方法をひとつ失い、それでも生き残るために大型に進化したイノシシ(ブタ)は、いくつかの目的により小型化され、実験動物であったり、我が家のようにペットブタとして存在しています。
環境と進化の関係から考えると、まるで太古の熱帯環境で過ごしていた時代のような姿に戻ってしまったとも言えます。
環境は伴うはずもないのに。
人間の都合で作り出されたマイクロブタはとてもか弱い存在です。
改めてそう感じ、飼い主はブタさんの生活環境に十分配慮しなければなりません。
寒さ耐性のあるブタが誕生している…?
真ん中あたりでリンクを挙げました、
Reconstitution of UCP1 using CRISPR/Cas9 in the white adipose tissue of pigs decreases fat deposition and improves thermogenic capacity
https://www.pnas.org/content/114/45/E9474
中国の研究者が行ったモノのようです。
遺伝子組み換え操作を行うことにより、白色脂肪組織にUCP1を持つブタを生み出しました。
ブタは気温の低い環境でも体温を維持できるようになり、冬季の出生時ブタの死亡率が低下することへも繋がるかもしれません。
養豚家にとっては、今までほど暖房設備に費用をかける必要がなくなります。
しかし、ブタが耐えられるからといって、より過酷な環境を生み出してしまう恐れを抱かずにはいられません。
また、UCP1の働きにより、脂肪量が減り赤身肉が増すといった肉質の改善へと導かれるとされています。
この研究は、養豚家の経済的問題そしてブタの動物福祉の問題が軽減されるという結びでしたが、ブタはずーーーーっと人間からいいように扱われているんだなぁと改めて考えさせられました 😕
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